melancholia//サイトの更新履歴兼、その時々のプレイゲーム日記、二次文章など。
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2011/01/09 (Sun) 謹賀新年 弐



短文なのになかなか出来なかったのは、ひとえに壇燈治が恥ずかし過ぎる所為です。
全面的に責任転嫁しつつ、ようやく年始小話壇編をお送り致します。
あまずっぱいというかあまじょっぱいというか……梅干しを食べたあとのような顔になってしまうこと請け合い!という雰囲気のアレですが、それでも良い!と仰って下さる猛者は追記からどうぞなのです。

以前部分的に書いていた初詣文章に繋がっていくのかも知れませんね、このあと。










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『おなじくらい』






七代千馗を初詣へ誘おう。

そう思いついてすぐに携帯電話を開いたのだが。
数拍のあいだ思案し、壇燈治は結局ぱちりとそのまま画面を閉じてしまった。



それには幾つかの理由がある。

まずひとつめは、雉明零と白のことである。
七代といえば、封札師の仕事の為に現在、担任教諭である羽鳥朝子宅に居候をしていて(壇が知ったのは最近のことだが聞いた時は大層驚いた)、あるじが其処に居る以上、札の番人である白と雉明も当然同じく居候をしているのだが。壇はふと彼らの顔を思い出し、新年早々彼らのあるじを其処から連れ出してしまうのはどうなのだろう、と少し思ってしまったのである。
初めこそ突っかかってはいたものの白も今ではああ見えていたく七代を認めているし、雉明の方は壇から見るとなんだか親鳥を一心に慕う雛のようだ。大きな面倒事も目出度くきれいに片付いて、そうして学校も冬期休暇へ入ったのだから、しばらくはべったりと何の心配もなく共に過ごすことの出来る良い機会だろう。
それを。
少しの間ではあっても、無下に取り上げてしまうというのは、やはり少し、気が引ける。
そしてふたつめは、自分自身への疑問と戸惑いである。
親友七代千馗を誘って初詣にでも行こうか、などと何気無く思いはしたが、その一瞬後、すぐに気がついた。壇は、生まれてこのかた、自分から誰かを初詣に誘ったことなどないのである。
初詣といえば、母や妹に無理矢理連れて行かれるか、或いは中学時代なら友人連中に誘われて遊びがてらに立ち寄ったことがあるという程度なのに。何故自分はいま、七代に声を掛けようなどと思ったりしたのだろう。自身の思い付きに壇は、やや面喰った。
面喰い、戸惑ってから、そうしてもうひとつ、その流れで壇はじんわりと悟ってしまったのである。
何の事はない。初詣に誘おうと思い付いたのはただ単に、あの男の顔を見たいと思ったから。
数日振りに七代千馗の顔が見たいと、会って他愛のない話がしたいと、そう求めたところに丁度良い口実が転がっていた、という、ただそれだけのことなのだ。
数瞬の間に壇は己の心情の全容を何となく知ってしまい。大きな当惑と僅かな羞恥に、思わずたたらを踏んだ。それが壇に、通話し掛けた携帯電話を再び閉じさせたのである。


ああ、とも、うう、ともつかぬ呻き声を洩らしながら、壇は己の部屋でひとり大きく嘆息した。
そうと自覚してしまえば尚のこと、誘いづらくなった。傍から見てもあれほど懐いている白と雉明からあるじを取り上げようとするその理由が、ただ顔が見たいから、というただそれだけだとは。壇には到底、それが正当な理由であるとは思えない。
壇は七代と同じ組だし、札の残滓のお陰でかの洞においてもずっと共に戦っていたから、思えば自分は本当に長い時間、いつも、あの男の傍に居たのである。誰よりも一番、近い処に。
それなのに。
たかだか数日顔を合わせなかったからといって、すぐに会うことを考えるとは。
否、むしろこれは、ずっと近くに居過ぎた所為なのだろうか。
壇は、はずかしいやらなさけないやら、己の思考回路に少し呆れてしまった。
七代千馗は、長らく閉じていた壇の殻を笑って蹴り壊した男である。壇はあの男に救われたのだ、あらゆる意味で。だから、己の胸郭に七代千馗への深い感謝や羨望、感銘がたくさん詰まっていて、それが好意という名を持って積もり積もっていることを、壇自身ようく知っている。
壇は、七代千馗が好きだ。
親友としてなのかとかそうでないのかとか、そういったことはどうでも良い。ただ、とにかく好きなのである、とても。強く、そう思うのだ。壇にとってはそれだけで良かった。
その認識は以前から壇の中に存在していたから、あの男に対して自身が抱いているそうした好意の強さについては重々理解出来ているつもりでいたのだが。
どうやら、そうでもなかったようだ。

己は、己が思っていたよりもずっと、あの男のことが好きなのだろうか。
こころを許すことの出来る親友という存在に、己はそこまで舞い上がっているのだろうか。
数日の間でさえも、離れることが出来ないほどに?

「…………」

壇は深く嘆息し。
携帯電話を握り締めたままガシガシと頭を掻いた。



七代千馗の顔を見たいと思う、それは確かなのだが、とて、何も考えずに己の欲求を押し通してしまうのも何だか正しくないような気がして、どうにも二の足を踏んでしまう。けれど、だからといって、一旦会いたいと思ってしまった欲求を潔く捨て去るというのもなかなか簡単なことではないようで。

「あああああ……、もう、」

寝台の上に腰掛け、壇はしばし本気で葛藤した。
一体どうすればいいのだろう。どうするべきなのだろう。
しかし、万が一壇が声を掛けたとしても七代の方はもう初詣を済ませているかも知れないし、そもそも電話に出るかどうかも判らない。本人は大層物臭な質だが、あの男は存外多忙なのだ。
それならば駄目で元々、そう割り切ってとにかく誘ってみようか。向こうから断られる可能性もあるのだと考えれば、何となく気も楽になる。或いは、やはりおとなしく電話で話をするだけにしておくべきだろうか。
考えれば考えるほど何だか判らなくなって、壇の脳回路が熱暴走を起こしかけたその時。
強く握り締めていた携帯電話が突然ぶるぶると震え始め、壇は本当に、跳び上がるくらいに驚いた。

「うおっ……、えっ、う、わあっ、」

完全に混乱状態に陥りながらも、壇の手は危うく取り落としそうになった携帯電話を寸手のところでなんとか捕まえる。応答ボタンを押す寸前にちらりと見えた、相手の名前は。

「あ、あああ、そ、その……、えっと、もっ、もしも、しっ」

声が強張っている上にみっともなく裏返っている。
緊張の所為なのか、驚愕なのか、それとも羞恥なのか。自身でもよく判らぬ理由によってどくどくと大きく波打つ脈を全身に感じながら、壇は意味もなく立ったり座ったりを繰り返してしまった。

『…………あけましておめでとう。新年早々、なんでそんなに慌ててんの?』

温かくも冷たくもないような、ようく見知った声音がじわりと壇の鼓膜へ染みる。

「うっ……………」
『まあ、なんだかよく判んないけど……とりあえず深呼吸しろ、深呼吸。とにかく落ち着け。……で、出来れば奇声以外の返事をしてくれる?』

そう言って。携帯電話の向こうの声音がくつくつと小さく笑った。吐息の混じる笑い声。
壇は、可能な限り己の耳を電話に押し付けた。
今、声の主がどんな顔をして笑っているのかなど。見えなくともその姿は容易に思い浮かぶ。

「………………………………、七代」

ぽつりと、壇の口からただ名だけがこぼれ落ちた。徐々に粗熱の落ちていく脈に、今度は細い痺れにも似た何かが広がった。

『うん』
「…………あー、その…………、あ、あけまして、おめでとう」
『無事に落ち着けたみたいでよかったね、おめでとう』

七代千馗という、壇の唯一の親友は、どうやら相変わらずのようだ。

「……………………元気、か?」

口許に沸いてしまった笑みを押し込めながら壇が問うと、七代はまた可笑しそうに笑った。

『なんなの、その年単位で会ってなかったみたいな台詞は? ついこないだも会ったと思うけど』

年単位、と何の気なしに言われ、壇はまた恥ずかしくなってしまう。
確かに、つい先日も顔を合わせてはいるのである、だから、離れていたのはほんの数日のことだ。それなのに、まさか本当にそれこそ七代の言った通りに、その数日を自分が年単位のように感じていたのだとしたら。壇はもう、途方に暮れるしかないのだが。

『ま、そっちこそ元気そうで何より。そうだよな、壇きゅんは風邪とかひかない人種だもんな。うらやましいわあ』
「…………誰がバカだって?」
『言ってねえよ? 俺は馬鹿だなんて、ぜんっぜんひとことも』

言って、七代が再び笑う。
今日は、何だか機嫌が良さそうだ。
妙に心地良いその声音にしばらく耳を浸してから、壇はひとつ咳払いをし。先刻の思い付きをおそるおそる口にしてみることにした。
七代千馗を慕う番人たちの顔は未だ脳裏にちらついていて消え去ることはなかったが、こうして声を聞いてしまうとどうしても直接会いたくなる。声だけでなく、直に顔を見たくなる。きれいに諦めることなど、どうにも出来そうになかった。
何故、先刻自分は、電話で話すだけでも、などと考えていたのだろうと。いまはそう思う。

「………………………………あの、さ、七代、」

乾いた口腔を何とか湿らせる。

「えっと…………、あー、はつもうで、なんだけどよ、」

正直なところ、理由は初詣でなくても構わないのだが。
壇が言い掛けると。電話の向こうで七代が、ああ、と軽く応えた。

『そうそう、それそれ、初詣の話。それをしようと思って掛けたんだよな』
「、えっ、」
『お前、これから出て来れる? 初詣に付き合ってくれない?』

七代は呑気な調子でそう言った。
壇が、電話口で息を詰まらせていることにも気付かずに。
この男は。
この男もまさか、自分と同じことを考えて電話を寄越してきたということなのか。
同じタイミングで?
まさか、そんなことが。
驚愕のあまり言葉を継げずにいる壇を置いてきぼりにして、七代は息を抜くようにして短く笑う。

『て、いうかさ。そう言いつつほとんど強制なんだけど……ちょっと、窓から外見てみて』
「……………………………、まど?」

脳の機能の大半は停止したままだったのだが、壇がとりあえずふらふらとその言葉に従って窓の外を眺めてみると。
道を隔てた正面のところに三人分の人影が在った。
携帯電話を耳に当てた格好の男と、淡い色彩の男。それに、同じ色味を持つ少女。
見詰めながら、壇は瞬いた。その人影を壇は確かにようく知っている。
真ん中に立つ男がひらりと此方に手を振ってみせた。

「…………」
『初詣自体っていうよりは出店の方に興味のある子がふたり居てね……、でも俺もあんまり行ったことなくてさ。こういうのに詳しそうなのは何となく壇きゅんかな、って…………さ、おい、聞いてんの? なんなのその間抜け面? 幾ら何でもちょっとびっくりし過ぎなんじゃないの?』

電話口から聞こえるその言葉と共に、男が呆れたように小首を傾げている。それは壇が、とてもよく見慣れた仕草だ。
確かに。何度見ても、いま壇の家の前に居るのは七代千馗である。顔が見たいと先刻から壇が望んでいた、あの。
七代千馗が、すぐ其処に立っている。
しかも。初詣へ行こう、と壇を誘いながら。

「……………………、なんだ、そりゃ」

あまりの展開に、壇は思わずふと笑ってしまった。
これは、一体なんなのだろう。
のぞんだものが向こうから壇の許まで歩いてやってくるとは。

『ほれ千馗、何をいつまでもだらだらと話しておる。馬鹿みたいに呆けてないで早う支度をせよと、あやつに伝えぬか』
『しかし白……かれの都合は大丈夫なんだろうか? 連絡は入れずに行く、と言って、七代は聞かなかったが』
『驚かせたかった、というのであろう? 我らがあるじはこういう他愛のない悪戯が好きなようだからの。それにのう鬼札、あやつの都合など訊くまでもないぞ。千馗に誘われて、あやつが断るわけがない』
『ちょ、うるさいな白、聞こえるからもうちょっと静かにして』

ぼんやりと棒立ちになっている雉明零、その隣で偉そうに胸を反らしているのが白。そしてそのふたりから携帯電話を庇うようにしながら肩を竦めているのが七代千馗。
眼に映っている彼らの様子と洩れ聞こえてくる声音との距離が離れているのが、何だか新鮮で面白かった。二階の窓からははっきりと顔まで見えるわけではなかったが、それでもやはり、壇には彼らがどんな表情で居るのかが手に取るようによく判る。

「…………そっか、みんなで行けば、良かったんだよな。確かにそれで全部解決だ」

方法は何も、譲るか奪うかのどちらかでなければならないわけではなかったのだ。選択肢はもうひとつ在ったのである。

「つくづくと、選択肢探しのうまいやつだよ、お前は」
『あ?』
「なんでもねェよ。すぐ支度するから五分待て、って伝えてくれ。白の言う通り、お前に誘われて俺が断るわけねェからな」
『、』

先刻の自分のように七代が言葉を詰まらせたのが何となく伝わってきたので、壇は少し笑い。
そうして、じゃあまたあとで、と言って電話を切った。
外出の為の上着を出しながらふと眼を遣ると、白が何やら七代から小言を受けているような様子が見えた。傍らで雉明がうろうろしているが、もしかしたら仲裁したいのだろうか。友人というものとは少し違う、家族にも似た彼らの結びつきは、妙に微笑ましい。



何も、ふたりきりでなくても。
どちらかが専有してしまうのではなく、彼らと七代千馗を共有するというのもそれはそれできっと楽しいのだろう。何より不満が偏らないのだから、それに越したことはないのだ。
壇は、訪れた機会を存分に楽しむことにした。

出店を案内させる為だ、と口にしてはいたが、あの男も少しは会いたいと、顔が見たいと、そう思うこともあったのだろうか、と。
益体もないことを考えながら、壇は出来るだけ待たせぬようにと急いで家を出る。

おなじくらいの強さで、とは言わない。けれど。少しくらいはそうであればいい。

仄かにそう願った壇を、赤い鼻をした親友が遅い、と言いながら笑って出迎えた。



















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書き手が言うのも何なんですが、壇が七代好き過ぎて怖いです。ね。





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