melancholia//サイトの更新履歴兼、その時々のプレイゲーム日記、二次文章など。
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2009/11/23 (Mon) P3P小話 / 伊織順平と主人公



昨日言っていた小話をなんとかかたちにできたので。
本当に取るに足らない話なのですが。

ねたばれも何も無い、伊織順平と男子主人公です。プラスゆかりっち。
主人公の名前は網縞夕です。


追記から。


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『犬も食わない』






夕刻過ぎ、月光館学院巌戸台分寮。



自室にて雑誌をめくりながら寛いでいた岳羽ゆかりは、一階のキッチンスペースで何か温かいものでも淹れようと思い立ち
ふらりと階段を降りたのだが。
降りかけたところで、大きな声が耳に入ってきた。

声の主は、伊織順平である。
言わずもがな。寮に住んでいるのは現在五名、その中でラウンジ全体に響き渡るほどの声を発するような人間は順平くらいしかいないのだ。
そして順平がそんな風に話せるような相手といえば、ゆかりを除くあと二名が歳上である以上、これもまたひとりしか居ない。

階段を降りきり、ゆかりが視線を投げてみると、案の定ソファには伊織順平ともうひとり、網縞夕の姿があった。
この巌戸台分寮を拠点とする特別課外活動部の戦闘リーダーで、ゆかりと順平にとっては同じ組の生徒でもある、今春からの転入生である。
夕は、順平の正面で片方の膝を抱えるようにして背を丸めている。
その横顔をゆかりはじっと見遣った。

きれいな造作をしているとは、ゆかりも思う。
長めに垂れた髪は夜の空のような黒い色をしていて、男にしては白い皮膚にその黒がよく映える。
華奢なように見えるのに、あの塔で剣を振るう時には凛として。そして強い。
戦闘の指示を任せるに足る、と思う。
それは恐らく、伊織順平も充分理解している事なのだろう。己自身も夕と共に戦い、その力を身近に感じているのだから。
しかしだからこそ。
それだからこそ順平には受け入れがたいのだろう、とも思う。彼と己の力量の差を。
そして、順平にそういった事実を受け入れ難くしている要因のひとつが、夕という男のひととなりである。

多分、それが今、順平の声音を大きくさせている原因でもあるのだろうとゆかりは思い、ひとり嘆息した。
日常茶飯事である。これはいつものこと。
いつもの事なのに、とゆかりは呆れる。
いつもの事なのに順平はむきになり、いつもの事なのに夕は言葉が足らない。
一体このふたりは何なのだろう。

「だから、繰り返すけどさ!
 俺はお前を夕、って呼んでるわけじゃん」

順平の声がゆかりの鼓膜に充分なほど届いた。
何の話なのか全く判らないが、何となく予測していたものとは少し違ったような気がした。
言い掛けられている夕の方は、順平の左手にあるカップ麺が身振り手振りによって大きく揺られているのが気になっているらしく、それから眼を離さない。
確かにあれがこぼれては大惨事だが、興奮気味の相手と会話をしている最中にしては冷静過ぎる。
そういうところが順平をなお煽る事を夕は知らないのだろうか。
猫のように動くものを視界に捉えながら、夕は口を開いた。

「…………そうだな。転入初日からな」

テレビがもしついていたらゆかりは彼の声を聞き取れなかっただろう。網縞夕は何もかもが順平とは真逆にある。

「え、ソレ、お前的にはヤなわけ?もしかして」

夕の呟きに順平は少し怯んだらしかった。
一見するとあまり変わりないが、声のトーンが沈んだのがゆかりには判る。順平とは一年生の時も同じ組だったのである、その一年は伊達ではない。
伊織順平は判りやすい構造をしているし、押される事には弱い男なのだ。

「……………………別に」
「つって、めちゃイヤそうじゃんよ!」
「呼び方なんてどうでもいいし、お前が呼びたいように呼べばいい。
 大体、文句があるならその日のうちに言ってる。
 今はもう五月の末だろ」

夕はそう言って肩を竦めた。
本当にどうでも良さそうである。
確かに、ああ見えて度胸もあるし肝も座っていて全く怖いものなしの男だから、何か不平不満があるなら遠慮などせずにその場でぶちまけているのだろう。
それに、夕が転入してきてからもう一ヶ月程経っている。今更だと言いたいのだ。

「…………じゃ、これからも、ゆう、って呼んじゃうぜ?」

順平が念を押した。
それに対し、夕は、離れて見ているゆかりの眼にも明らかなほど大仰に息を吐いてみせる。
どうでも良い上に、面倒臭いのだろう。多分。

「伊織のお好きなように」

夕が言い終わらないうちに、順平がまた叫んだ。

「それだっ!」

大音量に、ゆかりは眉をひそめた。
今日は幸いにも真田明彦と桐条美鶴両名は揃って何か用があるらしく夜間不在だと聞いているから良いようなものの、彼らがもし居れば、何を騒いでいるのかと咎められるに違いない。
ゆかりは何となく、同じ二年生部員としてあまり先輩らに呆れられるような行動をして欲しくはないのだが。
先輩二名が不在だと判っていて騒いでいるのかそれともそんな事は意識していないのか、順平はソファから立ち上がって夕を指差している。
人差し指を突きつけられている当の夕は、面倒臭そうな上に大層迷惑そうな顔で順平を眺めていた。

「どれ」
「その、いおり、っての!」
「それが?」
「それが?じゃねえよ、俺はじゅんぺいでいいぜって言ったよな?絶対言ったよな?
 ゆかりッチだって順平って呼ぶし、真田先輩も呼んでんだぜ!」
「だから?
 桐条先輩は呼んでないし」
「だ、か、ら、なんでお前はそこで超少数派の桐条先輩の真似しちゃうわけ?
 そんなに桐条先輩をリスペクトしてんのかお前は?」

キッチンスペースに入り、ゆかりはケトルを火に掛けたが興奮気味の順平は当然気が付いていないようだ。
それにしても本当に、一体何の話をしているのだろう。

「別に真似をしているつもりはないし。
 特別リスペクトもしてないけど」

誰かを尊敬する、などという事が果たして網縞夕に起こり得るのだろうかとゆかりは想像してみた。
かなり、難しかった。絶対に有り得ないという気すらする。
食器棚から自分専用のマグカップを取り出していると、ぼすん、という音が聞こえた。順平が再びソファに腰を下ろしたのだろう。

「リスペクトしてないんかよ……
 まさかあの人をリスペクトしてねえ人間がこのガッコに存在するとは。
 俺だってある意味リスペクトしてんのに」
「してたのか。
 そりゃ、全然、知らなかった」
「……なんか気になる言い方だな、オイ」

順平は夕を睨んだようだが、夕は飄々と欠伸をしている。

「お前が桐条先輩の真似してねえのは判った。
 けどな、あの人とおんなじ呼び方されっとさ、びくっとすんだろうが!
 判るだろ?あの人に名前呼ばれると、こう、キュッとなる感じ!」
「何が?」
「そこは訊き返すとこじゃねえの!」

順平の発言を深くは考えないようにして、ゆかりは沸いた湯をカップに注いだ。
湯を多めに薄く作り、ミルクと砂糖を少しずつ。

忍耐の限界なのか、夕は伸びとも相槌ともつかぬ声をうーん、と発して首筋を掻いていた。
興味の無い場所に連れて来られた子供のような反応だ。完全に飽きている。

「だから、何?」

抑揚無く先を促す。
自分が解放されるには順平の話を完結させなければならないのだから、夕としては出来るだけ早く結論を聞いてしまいたいところだろう。

「だから!
 桐条先輩とおんなじ呼び方はやめてもらいたいって事なの!
 俺は夕って呼んでんだから、それでいいだろうが……なんでいおりなんだよ」
「なんで、って…………」

問われた夕は、眼線を順平から外してしまった。

「…………その方が短いし」
「はァ?!
 じゅんぺいって、そんな長い?!
 お前どんだけ面倒臭がりなんだよ!」
「強制される事?」

夕もいいかげん苛々してきたらしく、無表情だった眉が少し寄った。

「はいはいはいはい、
 どうでもいいけど順平、アンタはちょっと音量でかすぎ」
「うわ、ゆかりッチ!」

本気でゆかりの存在に気が付いていなかったようで、順平は少し飛び退った。
そのオーバーアクションを尻目に夕の前へ、もうひとつのカップを置く。

「何にも入れてないけど。それでいい?
 何か入れるなら取ってくるけど」

言い掛けると、夕は白いおもてを上げてゆかりをじっと見詰めた。
大きな眼に嵌め込まれた黒い虹彩は何処かしら危険で、覗いてしまうと胸の奥がざわりと騒ぐのだが、引かれ、吸い込まれてしまいそうな。そんな甘さも混在する。
結びつけられてしまった視線を外さなければとゆかりが考えていると、夕の唇が動いた。

「ありがとう」
「……あ、……うん、別に。ついでだったし」

相変わらず、抑揚も無くぽつりと落ちる声。けれどゆかりはそれを特に不快だとは思わない。
夕とゆかりの顔を交互に見遣り、順平が半眼になった。

「……………………ちょ…………………
 なんでコイツにだけコーヒーサービスなわけ?
 もしかしてゆかりッチってば、夕専用ウエイトレス?」
「ば、…………馬鹿な事言わないでよ順平!
 単に、私は彼の引っ越し荷物の整理をちょっとだけ手伝ったから、彼のカップを知ってたってだけ。
 アンタのカップ、知らないもん。仕方無いでしょ?」

言われ、マグカップなど持ち合わせていない順平は黙るしかなかった。
流れた沈黙へ、夕が熱い珈琲を啜るずるずるという音が重なる。
自分の分のカフェオレをテーブルに置き、ゆかりはソファに腰を下ろした。

「それに、なあに?
 さっきからつまんない事を大きな声でぐだぐだぐだぐだ繰り返してみっともないったら。
 遠回し過ぎるから伝わんないんじゃない?
 馬鹿じゃないの?順平」
「ばっ、ばかァ?」
「ていうか、馬鹿だね、順平。断定だったわ」
「言い切んな!」
 
突然登場したゆかりの発言に、順平は眼を白黒させて慌てている。

「てかゆかりッチ、さっきからもしかして聞いて、らっしゃった……?」
「聞いてたってか、聞かされてた?
 聞かれたくないならあんな大声で話すのやめなさいよね」

あのねえ、網縞君

ゆかりが夕の方へ向き直ると、両の掌で大きなマグカップをくるんでいた夕が小首を傾げる。

「ラウンジに響き渡るようなでっかい声でわめき続けられても堪んないから言うけど。
 網縞君、コイツはね、
 きみに、是非とも、名前で呼んでもらいたいんだって。じゃないと落ち着かないんだって。
 自分がきみのこと名前で呼んでるのにきみは呼んでくれないから。
 わかる?」

つまり、きみと、もっと仲良くしたいって事なのよ

ゆかりの言葉が届くと。
夕の眼がほんの少し驚いた風に見開かれた。
彼のこんな表情を見るのは初めてだ、と視線を合わせながらゆかりは考えていた。
この男も驚く事は、あるのだ。当然。

「ちょっ…………………………!
 そ、その言い方じゃ…………!」
「なによ。間違ってないでしょ?要約してあげただけじゃない」

眼を白黒させていた順平は、今度は顔を赤くしたり青くしたりしている。

「……どう?網縞君。
 仲良くしてあげる?」

ゆかりが問うと、夕は少し思案顔になった。
考え込むところだったのか。
ゆかりがそう思いながら眺めていると、微かに首が動いた。
それはどうやら首肯、らしい。

「…………わかった」

いつもの音量でそう呟いて。
真直ぐに順平の方へ白い掌を差し出す。

「よろしく、」

えっと

「……いおり」

続いて夕の発した名に、ゆかりと順平は漫画のようにずっこけた。

「なんなんだよ、結局呼ばないんかよ!?」
「、いや、」

掌を差し出したまま、言い募られた夕は視線を彷徨わせる。

「じゅんぺい、よりもいおり、の方が短いし、言いやすいし、
 それに、
 …………響きが、好きだから」

零れ落ちた夕の声音はいつもよりなお小さくて。
途端、正体不明の何かがゆかりの胸に突き刺さり、その衝撃が脈を速くした。
何なのだろうこれは。
己の反応に内心狼狽しながら順平の方を見ると、つばの影になってよく判らなかったが耳の先が真赤になっていた。

網縞夕は。
伊織順平と親しく付き合う事に抵抗を感じているのではなく。
名で呼ばないのは、姓の音を気に言っているから。
そして今後、距離を縮める事に異存が無いしるしに、掌を。

そういう事なのだ。

「…………そ、う、言われたら、しゃあねえな」

キャップのつばで赤い顔を隠しながら伊織はぼそぼそと呟いた。

「しゃあねえから、いおりっての、許してやるよ、夕」
「うん」

表情無く夕がひとつ頷いて。順平がそのひんやりとした掌を握って返した。

この奇妙な握手の光景を眺めながら、これを馬鹿馬鹿しいと思うべきなのか微笑ましいと思うべきなのか、ゆかりはよく判らなくなり。
結局は大きく嘆息して、

「…………ほんっと、馬鹿」

そう、柔らかく罵倒しておく事にした。



伊織順平に対し、羨む気持ちがないではなかったので。















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こんなんだったらいいなという願望です。

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