melancholia//サイトの更新履歴兼、その時々のプレイゲーム日記、二次文章など。
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2010/07/12 (Mon) 鬼祓師小話 / 第三弾、壇と七代の場合

頂いた拍手コメントのお返事は下の記事でさせて頂いております。
有難う御座います、お心当たりの方は其方もご覧下さいませ。


文章ゲージがゼロになっていた為に大層アレでしたが、寝て起きたら案外と回復していたので
書き上げる事が出来ました、ほんとうによかった。
春夏シリーズ、今回は壇と七代です。
最近あまり壇関連の文章が書けていなかったので、雉明やら雉明やらの文章を上げるたびに
おもてで頂く『更なる壇を!』の文字が胸に突き刺さっていたというか何というかで、
加えて、何だか周囲が壇派の方々ばかりな事もあり、余計に壇文章を書いて恩に報いなければ!
みたいな感じになっていたのですが……
何とか書けて良かったです。
書いてる本人がウッと来る感じの痒さです、が、どうだろう。

予定では残りひとつなんですが、思い付き次第また幾つか増えるかも知れず。


暑中お見舞い申し上げます!






鬼祓師春夏文章 『向日葵』





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『向日葵』





「しぬ」

壇燈治は、教室の壁に頭を預けながら言葉の通り本当に死にかけているらしい親友の様子をぼんやりと眺めていた。

勉強が趣味だと豪語するだけあって成績が良く、面倒だ何だと言う割にはどんな競技も人並み以上にこなし、そして顔の造作も悪くない。ここまで来ると感心も既に呆れの域に達してしまうのだが、そんな七代千馗にも弱点があったのかと、壇は何処か少し不思議な心地である。
教室の窓を全開にしているというのに風が一向に吹き込んで来ないので、窓の方を睨みつけながらひどく恨めしそうな顔をしている。壇の前の席で四肢を投げ出す七代の眼差はとても胡乱だった。
このまま、陽の一番高い時に日向へ放り出せば簡単に降参してしまいそうな程に。

「……いや、本気で死ぬかもな」

札を打って隠人を屠る鮮やかな姿が嫌でも思い出される。それが壇の脳裏に蘇り、眼前の男のさまと重なった。七代千馗という男がそのちからを存分に振るうところを壇は一番近くでようく見てきたのである、だから余計に今眼前に晒されている差異について首を捻らざるを得なかった。
否、洞での七代を知らずとも。地上であっても七代は普段概ね非の打ちどころが無いような男なのである、級友たちとて暑さに項垂れる七代の姿にはさぞかし驚いているに違いない。
壇の呟きが聞こえていないわけでは無かったのだろうが、七代はそれへ応える事も問い返す事もしなかった。そうする気力も、無いのだろう。

「しかしお前が、そこまで夏が苦手だったとはなァ」

そう言う壇の声は呆れ半分面白さ半分である。

「何……お前は、夏、嫌いじゃないの?」

ようやく応えた七代の声音はひどく重苦しい。歯切れがいいのが常の七代千馗なのだが。

「俺か?俺は別に嫌いじゃないな。どっちかって言うと寒い方があんま得意じゃねえ」

思ったままを返すと七代は、思いがけず不味いものを口にしてしまった時のような何とも言えない顔をして壇を見た。未だかつて見た事の無い顔だと思いながら壇は親友の表情を見詰め返す。かの奇天烈なカレーを口にした時でさえこんな顔はしていなかったというのに。

「お、お前……まさか夏が嫌いじゃないなんて…………夏なんて汗だくになるわ食い物が腐りやすいわでぜんっぜん良い事ねえのに……判ってんのか壇、寒けりゃ厚着で万事解決だけど、暑さってやつは全裸になったって暑いままなんだぜ」

丁度傍を通って行った同じ組の女子生徒が七代の口にした単語に驚いたようだったが、当人は気にした様子がまるで無い。
面倒臭がりだが面倒臭がりであるがゆえに、面倒事を起こさないようにと普段は案外と愛想の良いのがこの男の常なのに、やはり判断力や思考能力といったものも軒並低下しているのかも知れない。とて、こういった面でのフォローは壇の得手分野では決してないので。そのままにするより他に遣りようは無いのだが。

「何で鴉乃杜の冷房設備は各教室までちゃんと整ってないんだろう…………」

壇の机に突っ伏して。七代はひどく沈鬱そうに呟いた。
益体の無いその呟きに苦笑しつつ、頬に張り付く黒い髪を払ってやる。指先に触れた皮膚は確かに汗ばんでいて、いつもよりも熱かった。項垂れてはいるがそれさえ無ければむしろ涼しげにさえ見える顔をしているのに。

「、……」

確かに言葉の通り、七代はやはり相当、弱っているのである。
指から伝わる感触が壇へ、改めて七代の窮状を知らせていた。

「…………おい七代……、お前、大丈夫か?」

思わず声をかけると、七代の頭が横方向に揺れる。

「だから、だいじょうぶじゃないんだって。あたまがいたい。しぬ」

別に壇は、七代を疑っていたわけではなかったし、心配していないわけでもなかった。
けれど、夏の暑さが七代の身体に充満して、普段は冷たい皮膚をしているこの男の体温をここまで上げているという事実は今更ながら壇を少し、焦らせたのだった。七代の感じている苦しさをほんの少し引き取ってしまったかのように。壇の机に上体を投げ出している七代千馗の姿に、壇の胸郭がぎゅっと軋む。

なんとかしてやらねえと

突如使命感にも似た衝動が沸き上がり。
それに突き動かされるように壇はぐるりと思考を巡らせた。出来得る限り精一杯、音がするくらいにぐるりぐるりと。

「…………………………、ちょっと、待ってろ」

そうして、ようやく思考を固まらせてから、壇は立ち上がった。
少し湿った七代の頭をぽんとひとつだけ撫で、それを挨拶代わりに教室を出る。
何故か突然何かを思い立ったように勇ましく出て行った親友を、薄く開いた眼でもって七代は不思議そうに見送っていた。



「コレで良いんかのう?」

二年生の教室の前で、壇燈治は頷いた。

「ああ充分だ……コレはちょっとの間、借りてても構わねえのか?」

問われた宍戸長英が笑顔を返す。

「タオルなんぞたくさん持って来とるけェ、一枚くらい何の問題もありゃあせんですわい。そがァ入用なら何じゃったらそのまま持ってってもろうても構わんくらいですけェの」
「そっか、ありがとな」

宍戸は剣道部主将である。運動部に所属しているのであればと付けた予想は間違っていなかったようだ。壇は表情を緩めて白いタオルを見遣る。

「燈治先輩」

長身の後輩から名を呼ばれて顔を上げると。宍戸は手渡したタオルと壇の顔を交互に見詰めている。

「わしにはよう判らんが、そりゃあ何ぞ、千馗兄ィの為……なんですかいの?」

壇は思わず宍戸を見た。七代千馗の為なのだと壇は、ひとことも口にしてはいないのだが。
どう返すべきかと壇が逡巡しているうちに、宍戸は勝手に壇の表情から回答を得、そうして笑った。

「やっぱりそうなんじゃなァ! 千馗兄ィの為なんじゃったら幾らでも持ってってつかあさい、一枚でも二枚でも三枚でもわしは一向に構わんけェの!」
「、い、いや……、一枚で充分だけどよ、」

それよりも何故七代の為だと?
壇がそう訊ねると、宍戸はけろりとした。

「そがァなもん、燈治先輩の顔見たら誰でも判るけェ」

簡単にそう言い切られ。壇が思わず、無意味に己の頬を擦った。
宍戸の言う事が壇にはよく判らない。己は一体どんな顔をしていたというのだろう。
もう一段突っ込んでそれを問うべきか問わずにそっとしておくべきなのかと壇が悩んでいる間に、宍戸さっさと壇を押し返した。この男は一度煩悶の奈落に落ちてしまうとなかなか抜け出せずに自らどんどん嵌まっていく質なのに、自分が絡まない時にはひどく明朗で簡潔だ。

「何かは判らんがそれが兄ィの為になるんなら早く行って下せェ燈治先輩、わしゃあ次が実験での……やれフラスコが丸かったり三角だったりするのが気に入らんとか何とかぬかす蒐をしっかり捕まえて行かにゃならんで」

じゃ先輩、千馗兄ィによろしく!

様々なものを咀嚼し切れず消化不良のまま壇は後輩の背を見送り。
トイレの洗面台でタオルに水を浸しながら、鏡の前でしげしげと己の表情を確認した。



じわりと規則的に脳を苛む頭痛の波に晒されながらも七代はほんの少しの間、眠りに落ちていたらしかった。
そこへ突然触れた冷たさに驚いて、ぱちりと瞼が開く。

「…………あ、悪い、寝てたのか?」

耳に届くのは先刻勢い込んで教室を出て行った壇の声である。
覚醒したばかりで状況を咄嗟に把握し切れず七代はとりあえず、机から身体を起こした。長く眠っていたのかそうでないのかという事もよく判らない。

「壇、?」

そして頬に触れている冷たいものは何なのだろうと手をやると、壇の掌に指が触れた。
それはどうやら、タオル、らしかった。冷たい水を含ませたタオルが熱を持った七代の皮膚に当てられている。
思わず眼の前に立っている壇を見上げると、壇は子供のような顔で笑った。

「生憎とさ、俺はハンカチとかタオルとか持ってねえからよ……長英んとこ行ってちょっと借りてきたんだ。長英に礼言っとけよ?」

言いながら壇は濡れたタオルを七代の首筋へ巻き、端を頬に触れさせてやった。七代は壇を見詰めたまま、茫然と瞬きを繰り返している。
七代の体温の所為でタオルは存外すぐに温んでしまい。壇が僅かに嘆息する。もう一度水に晒してくるべきだろうか。しかし氷水に浸すわけでもないので、きりがないのかも知れない。
とりあえず何の解決にもならないが、壇は何となく七代の頭を撫でた。

「帰りで良けりゃアイスでも買ってやるから…………だからそれまでは何とか頑張れ、な?」

これでは妹を宥める時と同じ言いようだと壇は思い、自身の言葉を少しだけ後悔したのだが。
中学生でも女子でもなく、れっきとした高校三年生の男子である七代千馗は、唐突に壇の腰に抱き付いた。

「、わっ」

項垂れていたくせに妙に強いちからで壇の腹がぎゅうぎゅうと抱きしめられる。七代、と親友の名を口にしようとしたところで、先に向こうの方から名を呼ばれた。

「壇」
「…………あ?」
「あいしてる」

壇の腹に顔を押し付ける七代の言葉は、暑さに淀まず、とてもくっきりとしている。

「、…………………………ばーか、んな事言ったってひとつしか奢ってやらねえからな」

よかった、と。

ただそれだけを思い、七代の頭を撫でながら壇は微笑んだ。














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多分、教室内の生徒さんたちはものすごい居心地悪いと思います。


こんなこともあろうかと作っておいた広島弁メモが役に立ちました!うれしい!




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