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2010/06/06 (Sun) 鬼祓師小話 / 親友サンドとオールスターズ


カナエさん、俺はもう疲れたよ。

うっかりと変な目標を立ててしまったばっかりにハードル上がって大変でした。
しかしやり遂げた……!自分を褒めたい。
あんまり推敲してないけどもう無理。

多分これが親友サンドというやつだと思います。
曲解していたらすみません。

あー、次は何かあっさりした文章を書きたいなあ……



(追加:そうそう、べにおさんはみのりんが言ってた人がそれなんです、
    十話の夕方なので…わかりにくかったですねすみません!)



十話の夕方の話です。追記から。









鬼祓師文章 『幸福のかたち』











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『幸福のかたち』









放課後。



花園神社境内の階段に腰を下ろしてまだ夕刻にはなりきらない青い空の色をぼんやりと眺めていると、ふととても見覚えのある姿が壇燈治の視界を掠めた。
見間違える筈も無い。
七代千馗である。
先刻まで雉明零も此処に居たが何処かへ行ってしまったと、壇は言おうとしたのだが途中で何か変だという事に気付き、七代の様子に注視する。
七代は壇を見付けるなり、それはそれは大層遅い速度で片手を上げた。
あまりにゆっくりと手を上げるので壇は当初それが挨拶である事が判らず、一体何の合図なのかと凝視してしまったくらいだ。
あの変な動作。
そしてよくよく見れば足取りも普段とはかなり違って全力疾走でもしてきた後のような頼りなさで、浮かべた表情も妙に苦々しい。
あれはもしや、と壇は考える。
考えているうちに、ようやく、といった雰囲気で壇の眼の前まで歩いてきた七代は、ひどく大きく息を吐き。
無言のまま、視線で何かを壇に訴えかけた。
壇は、己に向かって投げ掛けられたその視線をとりあえず受け止めておく。

「……………………おい、
 まさか、ここでか?七代」

壇を見詰める七代の眼にいつもの尖った色はまるで無く。

「だいじょうぶ。だあれもいないぜ、壇」

零れる言葉は妙に不明瞭で聞き取りづらい。
甘ったるいと言えなくもないその声音に壇は、己の返すべき反応に困ってしまう。

「妙な言い方をするのはやめろ、馬鹿」

そう言ったものの。
七代の様子はもう限界のようで。
この状態の七代千馗が己を探してわざわざ此処まで歩いてきたのだと思えば、壇には断れる筈も無い。

「………………………………二時間、くらいか?」
「うんそれでいい。充分」
「ハア」

項垂れる壇に構わず七代は傍らへ座り、がっちりと壇の首に腕を回して抱き締めると、そのまま身体を預けて眠ってしまった。

「、七代?」

呼びかけてみたが聞こえる寝息は本物のようで。

「も、もう寝やがった、早過ぎるだろ…………」

以前から、蓄積された疲労が頂点に達すると七代は、電池が切れたようにこうして眠ってしまうのである。
度々屋上で眠ろうとするのでもうさすがに寒い時期だからと壇が止めると、今度はその壇に抱きついて眠るようになってしまった。
確かに、その方が暖かいのだろうけれど。
そもそも七代自身は眠りづらくないのだろうかと壇は常々首を傾げている。
そして高校生にもなる男が男にかじりついて眠っている図というのは如何なものなのかと薄ら寒くもなるのだが、七代の疲労については尤もだと思うのでそれに関して壇は極力考えないようにしている。

たかが二時間。
己の時間を二時間費やす事でこの男が癒されると言うのであれば。



おやすみ

間近にある七代の寝顔へ壇は、静かに静かに声を落とした。



--------------------------



「こんな人目につく場所で、恥ずかしくないのかしら?」

飛坂巴の言葉には相変わらず容赦というものがまるで無い。

「そ、んな事言ったってこいつが、」
「ああもういいわよ、アンタの言い訳なんて聞いたって仕方無いし千馗が起きるでしょ」
「お前が言うからだろうが!」
「うるさいってば、壇!」

言い合いながらも壇と巴の声音はとても小さく絞られている。
その事へ穂坂弥紀は微笑んで。
自分の髪が流れて触れてしまわないように気をつけながら、微動だにしない七代千馗の寝顔を覗いた。

「千馗君、本当によく眠ってるね…………
 疲れてるんだろうな……そうだよね、千馗君すごく頑張ってるもんね」
「まあ……時々授業をさぼるのは見過ごせないけど、頑張ってるのは確かよね」
「うん、ほんと、尊敬しちゃうな」

女子ふたりにじっと寝顔を凝視されている状況を傍から見、壇は自分の事のように少しいたたまれない気持ちになる。
以前珍しく教室で居眠りをしていた時、七代からずっと観察していたと言われてひどく狼狽した事を思い出してしまった。
羞恥を感じる点が常人とはずれている七代であれば、別段恥ずかしい事では無いのだろうか。
七代が眼を醒ましたら訊ねてみようと壇は考えた。

「それにしても、千馗君、すごく気持ちよさそうに眠ってるよね…………
 壇君に凭れて眠るのってそんなに気持ちいいのかな?」

そう言って弥紀は壇を見詰めながら首を傾げるのだが。
見詰められても壇には答えられるわけがない。

「ちょっと弥紀…………、頼むから、わたしも真似したい、とか言わないでよ?」
「あ、うん、やっぱり駄目だよね」
「ちょ、」
「…………悪いが穂坂、
 俺はこいつで手一杯なんで、やりたいなら飛坂に頼んでくれ」
「そっかあ、巴なら、」
「何言ってんのよ壇!弥紀も納得してるんじゃないわよ!」

穂坂弥紀の飽くなき探求心と好奇心を宥め賺す事に何とか成功し。
巴は溜息を吐きながら腕の時計を確かめた。

「あら、もうこんな時間なのね。
 何となく此処に居る気がして寄ってみただけだったんだけど」
「うん、これも札憑きの所為なのかな?
 何となく近くに居るんじゃないかって、判る気がするんだよね、千馗君の事」

彼女らの言う事を壇もぼんやりとは理解出来た。
かの白札の番人が呪言花札は執行者である七代千馗と繋がっているのだと言っていたので、その札の力を残滓として宿す自分たちにも何処かそういった感覚があるのかも知れない。

「わたしはちょっとあの、気になってる人がいるから見に行こうと思うんだけど…………
 巴はこれからどうするの?」
「私?私はこれからローラー作戦をもうちょっと詰めて進めていくわよ。
 人手の心当たりにはもう声を掛けてあるし……蒐と宍戸君はもう向かってるかしら」
「おい飛坂、あんま、あいつらコキ使うなよ?」
「ああら何を言ってるのかしら、千馗の為だって言えば喜んで自ら手伝うような人材よ?
 コキ使うだなんて心外だわ。
 見てなさい、最高の作戦を遂行してやるんだから」

そう言う巴はとても誇らしげな顔をしている。
その作戦とやらも、そもそも七代千馗ひとりにかかる負担を減らす為なのである。
自身もこの男の為に躍起になっているのだという事実を、果たして自覚しているのだろうかと壇は思う。
思いながら少し笑って、鬼生徒会長にそこまでさせてしまう恐ろしい男の穏やかな寝顔を見下ろした。

「穂坂も誰の事なのかは知らねえが、気をつけろよ」
「うん、有難う、多分大丈夫だと思う」
「じゃあ、私たちはもう行くから。
 壇、アンタはちゃんと千馗の睡眠を守ってやりなさいよ!」

言われるまでもねえ

言って壇は、己の責務を改めて掌に握り直した。


 
--------------------------




「千馗サン、寝てるの、かあ…………」

爪先立ちをしながら、日向輪が七代の顔を覗き込んでいる。
表情と声音に、気落ちした様子がありありと滲みだしていた。

「…………たまには修行、見てもらおうかなと思ってたのに」
「忍者の修行の良し悪しを、千馗くんに判断出来るのかな」
「千馗サンくらい強ければそれくらい出来るぞ!
 何といってもボクの隠行を二度も見破ったんだからな!」

胸を反らす輪の隣で、香ノ巣絢人がやれやれと肩を竦めた。
このふたりが揃っている時は常に眼にする光景である。

「うん、千馗サンもそりゃあれだけ頑張ってれば疲れるよな……
 寝る子は強くなるってじいちゃんも言ってたし。
 千馗サンの邪魔にならないように、修行はどっか違うとこでやろう!
 今日持ってきた忍具は何があったっけ……」

言って、輪は案外からりと納得し。
何処から出したのか、大量の道具を石畳の上へ広げている。
使い方も使い道も判らないような道具ばかりである。
あれは輪の祖父が営んでいるという骨董屋で購入出来るのだろうか。
そう思いながら壇が何となく眼を離せないでいると、先刻の輪と同じように七代の顔を見詰めながら、絢人が不思議そうな声を漏らした。

「ふむ…………、千馗くんは、眼を醒まさないね……
 本当によく眠ってる。僕がこうして顔を覗き込んでも」

囁くように言う絢人の顔があまりに七代に近付いたので、咄嗟に壇の手が動いたのだが。
セキュリティの強さに絢人は笑って上体を起こした。

「僕は彼に、警戒されていないという事なのかな」

千馗くんは勘の鈍い方じゃないと思うんだけど

優雅に首を傾ける絢人の表情は静か過ぎて、透明度が低過ぎて、壇には真意が見通せない。
けれど。
小手先の読み合いなど知った事では無い。
見えていたとしてもそれを正面から踏んで潰すのが壇の好む遣り方である。
だから何も捻らず壇は言った。

「、なんでこいつがお前を警戒しなきゃならないんだよ?」

絢人の静かな眼が壇の表情を捉えている。
絢人の虹彩の中で壇は口角を吊り上げて、この男の腹に潜むものを簡単に笑ってやった。

「あんま、見縊んなよ情報屋。
 こいつはこう見えても、呆れるくらい仲間を大事にしてるやつだぜ?」

たとえ口でどう言おうと。
一度眼についてしまったものは一切残らず、無理矢理掴んで引き上げる。
そんな男だからこそ、と壇は思う。
そしてそんな男だからこそ、香ノ巣絢人とて。
絢人は、整ったおもてに緩く微笑みを上らせながら頷いた。

「うん…………、知ってる。
 そうだったね」

敗北に喫する事を快く感じているような、そんな笑みで。

「ああ、そうそう、丁度貰いものの饅頭があってね。
 直接進呈しようと思っていたけれど、彼は残念ながら眼を醒ましそうにないようだからね、
 悪いが彼に渡してくれるかい?
 ふたりで仲良く食べてくれても構わないが、君は生憎と甘いものは苦手だろう?」

絢人はそう言いながら、持っていた紙袋を壇へ差し出す。
壇は、絢人の言葉の中に一本の小さな棘が内包されているのを感じながら、苦笑した。
この男が七代へ向ける心と、壇へ向けるそれの温度は、いっそ清々しいくらいに違っているようだ。
壇がより判りやすく明瞭な方こそを良しとするとはいえ。あまりにも。
棘の出所を考える。
先刻の己の言の所為なのかはたまた、今壇が置かれている状況によるものなのか。

「ああ…………、判ったよ、ちゃんと渡しとく」
「頼んだよ、壇
 千馗くんにくれぐれもよろしくと伝えてくれたまえ」

言って、にこりと笑う絢人の笑みはひんやりとしている。
相変わらず、情報屋というのはあらゆる意味で恐ろしい生き物だと。
それを実感しながら壇はふるりと頭を振った。




--------------------------




あまりに大きな声を掛けてくるので、壇は本気で驚いてしまった。

この男には眠っている七代の姿が眼に入らないのだろうか、それとも気遣って尚あの音量なのだろうか。
嘉門英雄は現在、最も近付いてきて欲しくない男である。
しかし此方が怒鳴ってしまっても本末転倒なのでどうやって速やかにこの男を排除すべきかと壇が歯軋りしていると、壇の苛立ちを知ってか知らずか嘉門は光輝くようないつもの笑みを浮かべた。

「なんとあの道佳君がね、幸徳寺君と共にこの神社一帯に結界を張ってくれたそうだよ!
 千馗君の眠りを何人たりとも破らせぬようにとね!
 安心したまえ!彼らがふたりがかりで張った結界はそうそう破れるものではないからね!
 これで千馗君もゆっくりと安眠出来るというものだ!
 うむ、これぞ正義!正義はかくも素晴らしい!」
「う、る、せ、え、ってんだ、よっ」

七代に圧し掛かられていない方の足を伸ばして壇が嘉門を蹴った。が。
嘉門の様子に一分の変化も無い。
壇の足の裏に岩でも蹴り飛ばしたかのような堅い感触がじんわりと残った、ただそれだけである。

「ははは、これは失礼!
 これでもかなり声を小さくしているつもりなのだがね!
 うむ……、千馗君は本当によく眠っている、きっと大丈夫だろう!」

そう言うものの、少なくとも壇の耳にはいつもと同じ音量のように聞こえるのだが。
壇は頭が痛くなった。
注意するのが無駄ならば、一体どうすればいいのだろう。
七代千馗がこうなるのは本当に、疲れている時なのである。
ひとりに全て背負わせるつもりが無いとはいえ、この男の肩にかかる荷がとてつもなく大きく重い事にはやはり変わりがない。
だから、出来得る限り静かに、眠らせてやりたいのだが。
どう説得したものかと壇が途方に暮れていると、嘉門は七代の顔を見詰めながら腕組をした。

「それにしても。
 こうしてみると千馗君も、何だかとてもかわいらしいものだね。
 いつもは真直ぐに正面を見据えて、凛としているような印象が強いのだが…………」

かわいらしい、という部分に壇が引っ掛かっていると、嘉門の視線が壇へ移った。

「周囲の守りは道佳君と幸徳寺君のお陰で完璧だし、
 千馗君の傍には他ならぬ君が居る。
 どうやら私の役目は此処には無さそうだね!」

きらりと歯が光る。

「正義を求める数多の声に応じる為、私は他の場所へ行く事にしよう……
 しかし、万一にも何かあったのなら遠慮無く私を呼びたまえ!
 千馗君の為ならば何処からでも馳せ参じよう!
 ではさらばだ!
 戦士千馗を守る騎士、壇燈治よ!」
「だっ、れが、騎士だっ!てか、ほんとにうるせえよ!」

堪え切れずに叫んでしまい、慌てて七代の顔を確かめる。
有り難い事に七代の呼吸は未だ深く、静かで。壇は胸を撫で下ろす。
境内の外に出たところで、蒲生道佳と幸徳寺要から説教をされているらしい嘉門の姿見えた。
当然の報いだと思うが、しかし近くに居るのならば蒲生道佳らも迅速に嘉門を何処かへ放り出すなり何なりしてくれれば、ここまで神経が摩耗する事も無かったというのに。

それにしても。
幾つの手がこの男を支える為に伸びているのだろうかと壇は思う。
この男を是非支えたいと。役に立ちたいと。

全く、本当に、恐ろしい男だ

そう思いながら己も全く例外ではないので。
ただただ壇は、苦笑交じりに嘆息を落とすしかなかった。




--------------------------




嘉門英雄に相当困惑させられたので、壇はもうひとつの大きな火種に関しては先手を打っておく事に決めた。
うっかり鉢合わせると恐ろしく厄介な事になるものがもうひとり。
その手段について壇はかなり悩んだがしかし逡巡の末、七代千馗の為だと迷いを振り切り、壇は七代のポケットから携帯電話を失敬した。
そこからアドレスを自分の方へ飛ばし、メールを送信する。

返信はほどなくして壇の携帯電話に届いた。
送信者は鹿島御霧である。
まず七代の携帯から勝手にアドレスを失敬した事についての罵倒や非難がたっぷり十行程横たわっており、その後にようやく送ったものへの返答が書かれていた。

壇が遠ざけたいのは勿論、鬼丸義王である。

あの男がもし何の間違いか此処へ来てしまったら、十中八九七代は眠ってなどいられないだろう。
だから壇は手を打ったのである、ただし当人にではなくその参謀へ宛てて。

どうやら御霧は此方の状況を大凡理解してくれたようで。
以前御霧が此方に対して仕掛けてきた数々の悪辣な所業を欠片も忘れていない壇にとっては、あの男の変化は甚だ不思議でもあり甚だ感慨深くもある。
もう忘れたのか許してやったのかは判らないが七代などはとても呑気に、案外とかわいい男だなどとのたまっていたのだが。
(そもそも七代にかかればほぼ全ての人間がかわいい、に属してしまうのであまり真に受けない方がいいのかも知れない)

なるべく此方でも義王の行動を制限するよう試みるつもりだが、何分相手はあの鬼丸義王であり、奴には野生の勘という如何ともし難い武器がある。
全くもって油断は禁物である。
全力は賭すが、勝算は五分ほどだと思って欲しい。

いやに漢字の多い御霧の返信には、そういった意味の事が書かれていた。

「そ、それはちょっと、低くねえか…………」

思わず画面に向けてそう言ってしまった。

最後のあたりには明らかに違い過ぎる文体で、チーフの寝顔写メよろしくネ☆、と書かれていたが壇は見ない振りをする。
あの女幹部は一体何を考えているのだろう。

「……ていうかチーフってなんなんだ」

携帯電話を畳み、七代の顔を改めて眺める。
七代は相変わらず壇の首を抱き締め、首を肩に預けて眠りこけていた。
ポケットから一度携帯電話を抜き取られたというのにぴくりとも動かない。
確かに余程疲れているのだろうとは思うが、あまりに警戒心の薄い様子に香ノ巣絢人でなくともやや心配になってくる。

「俺だからまだいいけどよ、これがもっと他のやつだったら、」

そう思い掛けて壇の思考が止まる。

壇だからこそ

「、……そういう事、なのか?」

深い深い眠りにつく時の枕として、この男が壇燈治を選ぶ事。
その理由について壇は、七代の口にする通りに、ただ凭れ具合がいいから、なのだと今まで思ってきたのだがもしかすると。
ほぼ完全な無防備状態へ陥ってしまう己の身体を、唯一任せられる存在として、壇を。

「…………………………まさか」

決して、七代はそんな言葉を言いはしないけれど。
十二月も下旬だというのに壇の頬へ妙に温い血が溜まってしまった。
それを隠すように七代の黒い髪へ己の頬を押し付けて、瞼を閉じる。

「時間もまだあるし……
 俺も少し、寝とくかな」

幸いな事に結界とやらの所為で恐らく何も入り込む余地は無いし、唯一の懸念材料には一応の先手を打った。
もし鬼丸義王が乱入してきてしまえばこの状況を守りながら追い返す事は不可能なので、もうその時は諦める他無いだろう。
五分であるという鹿島御霧の勝率を信じながら壇は、七代の身体を己の方へ抱き込んだ。
壇と七代の間で空気が潰れ、密着した体温同士が暖かい熱を発する。
確かに。こうしていると寒くはない。

七代が眼を醒ましたら、己を選ぶ理由について七代へ訊ねてみようか。
けれど、素気無くばっさりと否定するであろうこの男の声も表情も、壇には容易に想像出来てしまったので。
壇は問うてしまわず、自分にとって都合の良い答えをのみ勝手に信じておく事にした。



--------------------------



短く浅い眠りである、別段何かの夢を見ていたわけではない。
やはり七代を守らなければという気持ちが強かったのだろう、意識の一割くらいは覚醒したまま眠りの外界に在る物音を聞いていたような気がする。
その意識が、ふと何かを捉えた。
何かが近くに居る。

しかも、本当にすぐ近くに。

途端、壇ははっと眼を醒ましたのだが。
開かれたばかりの視界一杯に白い顔が覗いていたので、危うく壇は飛び上がりそうになった。
腕に抱えている七代の身体を思い出して咄嗟に悲鳴を飲み込んだ己のその反応は、それはもう褒められて然るべきものだったろう。
心臓の音が鼓膜の奥で大きく脈打っている。それを必死に沈めながら、立っている人物をゆっくりと見遣った。

雉明零。

腰を抜かす程驚いている壇の様子を、雉明はただぼんやりとその静かな眼に映している。
己が元凶であるという意識はまるで無いらしい。

「ち、あき…………」

丁度七代とは入れ違いに神社からふらりと出て行ったのだが、またふらりと戻ってきたようだ。

「もど、って、きたのか」
「ああ。
 少し、武藤と話してきた…………彼女とはちゃんと話していなかったから」

武藤いちるの名を口にする時だけ、雉明の眼が僅かに緩んで見えた。
詳しい事を壇は知らないが、七代と武藤、そして雉明の間には何か特別な絆のようなものがあるらしかった。

「そ、そうか………………
 それはいいけどよ、びっくりすんだろうが」

やはり言われている事の意味を解していない様子で、雉明は小さく首を傾ける。

「、すまない」

けれど壇からそう言われ、何か悪い事をしてしまったようだと認識だけはしたらしく、平坦な声音が謝罪を象る。
判らないのであれば謝らせる事にあまり意味が無いので。壇は嘆息しつつ早々に諦めた。
それにしても。
嘉門英雄をして完璧だと言わしめた蒲生道佳と幸徳寺要の結界とやらを、雉明はものともしなかったという事なのだろうか。
この男が常人でない事は壇とて知っているのだが、札というのは本当に、計り知れないもののようである。

「…………まあ、お前なら、どっかの猿と違って静かだからまだいいけどよ」

雉明の所作はひとつひとつ本当に静かで無駄な音がしない。
雉明は、その音の無い所作でもって眠る七代をじっと見詰めた。
 
「……………………七代は、眠っているんだな」

その視線がするりと七代から壇の方へ滑る。

「いつも、こんな風にして眠っているのか?」

単純で簡単だが答えづらい質問に、壇は息を落とした。

「……これが、こいつには落ち着くらしい、ぜ。
 凭れた感じがいいとか言ってやがった。
 俺にはどうも理解できねえけどな」

もうひとつの理由に関しては定かではないので伏せておく。
得た回答に、雉明はほんのりと微笑んだ。

「今、眠っている七代の氣はとても穏やかだ。
 余程安心しているみたいだな」
「、そうなのか?」
「ああ、判る」

そう断言して。
雉明は着ていた上着から袖を抜いた。

「…………七代が、風邪を引くといけない」

少し大きめの上着を丁寧に七代の肩へかける。

「お、おい雉明、
 これ脱いじまったらお前が寒いだろうが」

色の薄い皮膚に細い造りの身体。
一枚減った分、華奢さが一層際立っている。
細い所為で余計に寒そうに見えて壇は慌てたのだが、当の雉明はけろりとしている。

「おれは、ひとよりはあまり寒さを感じないから。
 ……こういう時には七代の役に立てるこの身の事を、少し、嬉しく思う」

冬の風がふわふわと雉明の髪を浚っていたが、雉明の浮かべる笑みは変わらず。
札であるという事がどういう事なのか、壇には判らない。
雉明の言うひとと、彼らの一体何処が違っているのかも。
けれど差異は確実に存在するのだろう。
壇は、七代の為にと微笑む鬼札に対し、言うべき言葉を見付ける事が出来なかった。

「………………無理は、すんなよ?」

ようやくそれだけを言う。
七代千馗がこの男を猫可愛がりしているのは知っているので、上着をかけられたとなるとむしろ怒るのではないかとも思ったのだが、柔らかく微笑む雉明の気遣いを無下に返却するなどというのは、全く、壇に出来る事では無かった。
雉明は唇の笑みをそのまま、壇へ向ける。

「きみも。
 七代のその眠りに付き合うのは、大変じゃ、ないか?」

問われた所為で途端に、壇の首筋がぎしぎしと軋むような痛みを思い出してしまう。
眠っているくせに、かじりついてくる七代の力は存外強い。
けれど、それを押して壇は笑った。
その笑みは、雉明のおもてへ浮かぶそれにとてもよく似ている。

「たぶん、お前と同じだ」
「、おなじ?」
「ああ」

頷いて、眠る七代の頭をそっと撫でる。

「こいつには世話になったし……、こいつは、親友だからな。
 こいつの為に何かしてやりたいって思うんだ…………
 俺で役に立てる事があるってんなら。
 こいつが他の誰でも無い、俺に付き合えって言うなら。
 こんくらい喜んで付き合ってやるさ、幾らでもな」

七代千馗が他ならぬ壇燈治をと求めるのであれば、その声に応えぬわけがない。
壇の言葉に耳を傾け、雉明は微笑みながらひとつ頷いた。

「そう、だな…………
 きみのその気持ちは、とてもよく、判るような気がする。
 彼の役に立ちたいと願う、その気持ちは」

雉明の脳裏に七代千馗と初めて会った時の事が鮮明に蘇る。
あの時、七代は既にとても強くて、誰の手も必要としていないのではないかと彼の背を眺めながら寂しさめいたものを感じ、いつか彼の役に立つ事が出来たらと武藤いちると共に願い合ったのだ。
かつての願いは以前よりも色を濃くして雉明の胸に在る。

彼を支えられるような己で在りたいと

今、僅かでも、その願いは果たされたのだろうかと思う。
そうであれば雉明にとって、これほど嬉しい事は無い。

「は、
 つくづくと七代千馗ってのは、とんでもねえ男だよなあ……」

この何処までも静かな男がひどくふんわりと柔らかく表情を崩すのを見、壇はそう笑うしかなかった。



それから雉明はしばらく黙って、ただただ七代の顔を眺めていたのだが。
視線を七代の頬あたりに残したまま、静かに口を開いた。

「壇」

この男が七代以外の名を口にするのは何となく耳慣れない。

「ひとつ…………、頼みが、あるんだが、」

しかも。
何かを頼みたいのだと言う。
白い横顔を見詰め、何となく少し身構えながら壇は先を促してみた。

「、なんだ、よ?俺に出来る事か?」
「七代がこれほどまでに穏やかでいられる快さというものが、一体どんなものなのか…………
 それを、おれも知りたいと思うんだが」

そう言って、雉明の眼が壇を捉える。
雉明のやや灰めいた眼には宿る感情の色が薄過ぎて、この男の真意を読み取る事はとても難しい。
硝子のような雉明の眼を見詰め。
壇はふと得体の知れぬ不安を腹に抱えながら、意味を問い返した。
この男は何を言いたいのだろう。

「つまり?」
「……つまり、」

雉明は判りやすい言葉を思案している。
どうすれば己の意志を相手に正しく伝達出来るのか、情報という知識はあれどそれを実行するのは案外と困難な事である。
ただ知っているだけの事と、実際に行う事には相当の隔たりがある。
それは雉明が七代と出会ってから知り得た事だ。

「おれも…………、七代と同じようにしても、構わないだろうか?」

同じように

壇は、己に凭れて眠る七代と、とても真面目な顔をしている雉明を、交互に見遣った。
同じように、というのはつまり。

七代千馗と同じ事を、したいのだと。

「ば、」

既に雉明は七代と反対側の方へ腰を下ろそうとしている。
両側から男に抱きつかれるという己の図は、いくら何でも本当に、有り得ないので。
こればっかりはと壇は焦ったところで、そこに雉明のものでも壇のものでもない声音が強く、重なった。

「だあめ」

驚いて其方を見ると。
壇の首に腕をかけたまま、飄と口の端を吊り上げる七代の顔があった。

「、おま、」

この男はいつ起きたのか。
本当はずっと前から起きていたのではないか。
唐突な七代の覚醒に壇は面喰いながら、茫然とその顔を見詰める。

「七代」

首を傾げる雉明の方は、七代が突然眼を醒まして会話へ割り込んだ事に何ら驚いてはいないようだ。

「駄目か」
「うん、駄目、これは俺専用の枕だから」

起きて早々、七代はとんでもない事を言っている。
壇が言い返す言葉を必死に検索したり、怒るべきか流すべきかと己の反応に悩んだりしていると、反対側で雉明が少し肩を窄めた。

「そうか……」

表情は薄いのだが、明らかに落胆しているのが判る。
雉明のそういった様子を眼にすると、妙に胸が痛んでしまうのは一体何故なのだろう。
確かに七代の言う通り(否、壇にとっての理由は決してそれではないけれど)真似をされてしまうわけにはいかないのだが。
壇は、眼を逸らすしかない。
何となく。
何となくだが雉明を眺めていると、七代が雉明を手許から離そうとしない気持ちが判る気がした。

「だからさ。
 雉明もこういう枕が欲しいってんなら、ほら」

七代の左手が壇の首から離れ、雉明の肩を己の方へ抱き寄せる。
抵抗らしい抵抗も無く、壇の眼の前で雉明の頭がすんなりと七代の肩口に埋まった。

「……俺がなってやるから。
 な、それでいいだろ?」

鼓膜がくすぐったくなるくらい、七代の声は柔らかい。
壇と話す時には決して使わない声音である。
この男は雉明に対する時はまさかいつもこうなのだろうかと考え、壇はげっそりと胸焼けを感じた。

「それは…………、何だかとても、よく眠れそうな気がする。
 本当にいいのか?七代」
「いいに決まってる」
「有難う、七代」






幸せそうに微笑む雉明を左の手で抱き締めて。

そして七代は口だけで微笑みながら右の手で壇を引き寄せ、慌てるその唇の端にべったりと口を寄せた。














---------------------------------------------------------------------------




名前だけでも全員絡めるのは、案外と、大層、大変な事でした。
土壇場でいちるちゃん忘れてててんぱったりもして。

……え、忘れてませんよね?(心配すぎる)

飛坂さんと嘉門英雄が妙に書きやすくて、新しい扉を開けてしまった感じでした。








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